郷里の母に久しぶりにメールを送ってみたところ、すぐさま返事が返ってきた。どうも最近あちこちが痛いらしい。
六十四にもなるのだからそんなものなのだろうと思っていたら、「腕があがらんから医者行ってきた。四十肩」とあって少し違和感を覚えたが、個人的に五十肩や六十肩というのを聞いたことがないので、四十歳以上はみな四十肩と括られるのだろうと納得することにした。
驚いたのはその次だ。最近、目薬と間違えて赤チンを差してしまい大騒ぎになったという。
「お姉ちゃんに怒られたわ」
母は順を追った説明もしなければ、人の質問にきちんと答えるということをしない人間だ。興味を抱いた私はインタビューの矛先を変え、現場でフォローにあたったという姉にLINEした。
「そうそう! 仕事終わったらそんな連絡受けてな。めっちゃイラついたわ」
姉によると、目薬と間違えて赤チンを差してしまった母は、間違いに気づいてパニックを起こし、119番へコールしたらしい。だが眼科医がいないということで救急車の出動要請を断られてしまい、次に藁にもすがる思いで娘(姉)に連絡をとったのだという。
電話口のあまりの騒ぎっぷり。姉が仕事帰りに急いで駆け付けると、母は開口一番「このままでは失明する」と主張した。
見えなくなったのか、痛みがひどいのか、などを問うたところ、「ピリピリする」と言うので辟易した姉だったが、狼狽する母を叱責し、やむなく母を連れて近場の病院を訪ねたものの、どうやらそこも眼科医がいない時間帯ということで診察を拒否されてしまったらしい。
そこでは大阪の病院を紹介されたようだが、遠いので断ったそうだ。
後に母が言う。
「あの子めっちゃ怒ってたからな、もう悪いし思って断ってん」
姉と別れた母は、けっきょく夜通し台所で目を洗浄し続けたらしい。
みんな元気そうでよかった。
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