コロコロvs抜け毛

「自分自身との終わりなき闘い」

【ホラー小説】袋小路(9)

 

 

拙くて恥ずかしい限りですが、むかし初めて書いたホラー小説を公開致します 


 【ホラー小説】袋小路(9)

 

 ベッドが見えた。
 陸は言葉を飲み込んだ。そこに横たわっていたのは、陽菜だった。陽菜は目隠しをされた状態で横になっている。陽菜の他には、誰もいないようだ。
「ハル──
 言いかけながらカーテンをもう少し開くと、気づいたことがあった。改めて見てみると、陽菜は眠っているようだった。
 肩口まで、柔らかそうなブランケットがかけられている。壁際の小さなラックの上には、アロマが焚かれていた。陽菜の顔のそれも、目隠しというよりも、アイマスクだということがわかった。
 どう見ても、ただ居心地よく、すやすやと眠っているだけのようだった。
 陸は首を傾げた。二人が危ないって、どういうことだ?
 疑問がよぎったその時、隣の部屋から、例の声が聞こえた。
「うンー」
 どくん。また、陸の心臓が強く打った。この二部屋は、奥で繋がっていることがわかった。陸は眠っている陽菜の傍を通り抜け、入り口と同じようにカーテンで仕切られただけの奥の出入り口に身を潜めた。
「うンー」
 甲高い声と共に、チュッ、チュッ、という、湿り気を帯びた、何かを吸うような音が混じっている。
 陸は目の高さまで片手を挙げると、カーテンに人差し指を引っ掛け、そっと、そっと、開いてみた。
 ほんの少しだけできた隙間から、左目だけを覗かせる。
 ベッドの上、人の足裏が、こちらに向いていた。
──
 陸は言葉を失い、腹がぺたんこにへこんで内臓がせり上がりそうになる。しかし喉と気道は絞られた雑巾のように細く締めつけられ、行き場を失った五臓六腑が、胸の奥で爆発しそうになる。
 ベッドの上にいるのは、陽菜の母だと直感した。うつ伏せになり、こちらに足を向けて眠っている。
 しかし、そこに広がる情景は異常なものだった。
 施術の際に着せられるのであろうスウェットが、ブラジャーが見える程までにたくしあげられていた。
 露わになった真っ白なその背中と腰には、まだら模様を帯びたどす黒い無数のヒルが、何匹も何匹も張り付いていた。
 ある程度血を吸わせたところで無理やりに引き剥がされたのか、何匹かのヒルが、もっと血をよこせと言わんばかり、獲物を求めるように虚空にその身を蠢かせていた。女性の白い腰から、赤黒い血が幾つもの筋をつくっている。
 陸は左脚の傍、ベッドの脇に、更におぞましいものを見た。
 陸が見たのは、禿げあがった頭に汗をかいた、一人の男だった。
 男はへばりついたガムを取るように、背中のヒルを一匹引き剥がすと、傷口からツーっと勢いよく流れ出した赤い血を素早く舐めとった。出血は止まらない。男は注ぎすぎてジョッキからこぼれてしまったビールの泡を吸うように、身を屈め、下からジュブジュブとわざとらしい音を立てて血を吸い始めた。
 垂れる血をひとしきり舐めとると、男は次にその傷口に唇を押し当てた。傷口から血を吸っている。
 チュッ、チュッ、チュッ。
 アロマが焚かれて甘い香りが漂い、ヒーリングミュージックの流れる憩いの空間に、不気味な汁気を帯びた音が響く。
 男は息継ぎをするように顔を上げた。
「うンー」
 恍惚の表情で、歓喜のため息をつく。さっきの声の主は、この男だったのだ。
 だらしなく開いた口を乱暴に拭うと、鼻、口、頬に至るまで、男の顔の下半分は血まみれになった。男は喜んでいるのかくねくねと全身をよじらせると、また、柑橘類にしゃぶりつくように唇をすぼめ、中腰になって傷口に吸いついた。血がもっと出るようにと、右手で腰の肉を揉みしだき、左手で、白衣の上から、怒張した自分のものを撫で回す。
 ヂュッ、ヂュッ、ヂュッ。
 男は白目を剥いていた。頬骨のあたりの肉は高く盛り上がっていた。唇が傷口に吸いついているので分かりづらいが、恐らく、あまりの喜びに笑っているのだろう。
「うンー」
 禿げ上がった頭の上に玉の様な汗が光る。浅黒い肌の下は興奮による血の気で赤みが広がる。
 赤黒く粘性を帯びたその全身をくねらせて蠢く様は、巨大なヒルの親玉のようだった。
「うンー」
 陸は圧倒されていた。これは、無理だ。自分では、この状況をどうすることもできない。
 逃げ出したい。ただその思いだけが陸の全てを一杯に満たした。しかし身体に力が入らない。腰から下に、まったく力が入らない。
 ギュッと目をつぶり、拳を握り、力を奮い起こす。まずは、この場を立ち去るんだ。
 ゆっくりと、そっと、力を振り絞って、一歩、片足を退いたところで、振り返ると、老婆が笑って立っていた。
「ひっ」
「ウチの人、腕が良いんですよ」
 皮膚病のようなどす黒く乾燥した顔をしわしわにして、老婆は訳のわからないことを口走った。手にするお盆の上の湯飲みが、力がないのか、カタカタと震えている。
 思いも寄らない事態に、声が出ない。
 老婆から目が離せずにいると、空気の動きを後ろに感じた。まさか、と思うが早いか、頭のすぐ近くで声がした。
「あんた」
「……」
「クローズって出してたの、見なかった?」
 先ほどの恍惚の表情から一変、血まみれの男が、真顔で立っていた。顔の下半分の血のりを拭おうともせず、無感情な目を向けてくる。
「気づかなかった?」
 背丈はさほど変わらないはずなのに、圧倒されてしまう。陸は声が出ず、ただ、震えるように頷いた。
「そう」はもう一歩迫りより、後ろ手にカーテンを閉めた。「見てたの?」
 意味を悟り、陸は激しく首を振った。
「ふうん。でも、本当は見た?」
 もう一度激しく首を振りたい。が、恐怖のためか、動きがどんどん固まってくる。
「男の子はね、はっきりしなきゃダメだよ」
 は陸の腕を強く掴むと、すぐ傍に横たわる陽菜に目もくれず部屋の外へ歩き出した。ものすごい力に抗うこともできず、陸は一方的に引っ張られた。老婆もその後に続いてきた。
「そこ座って」
 待合のあたりに来たところで腕を放され、パイプ椅子の方へ向かって背中をドンと押された。
 それが契機になったのか、陸は声が出せそうな気がした。シャツの胸元をグッと握りながら、振り返って声を絞り出す。
「すいませんでした」
 は受付に座り、俯いて紙をぱらぱらとめくりながら返した。
「何が」
「気づかずに、入ってしまって」
「聞こえない」
「あの、すみませんでしたっ」
 大声を振り絞った陸とは対照的に、は落ち着いたトーンで淡々と返した。
「いいから、座って」
 男は陸と目を合わせようとせず、俯いたまま、いいから座れと手をバタバタと振る。
 陸は座らなかった。「帰ります」
「そこ座って」
「帰りますっ」
 男は剥げ頭を掻きむしると、一度だけ陸を睨みつけた。
「帰さないよ」
 殺される。陸の目に涙が浮かんだ。身体は震えて力が入らない。嫌だ、殺されたくない。懇願するようにもう一度口を開いたが、男が繰り返した言葉によって、陸の言葉はかき消された。
「帰さないから」
 男は明らかに苛立っていた。俯いたまま、受付の机を指でトントントントン叩きながら、ぶつぶつと何やら呟いている。
 陸は言われるがまま、パイプ椅子に腰掛け、膝の上で拳を握り締めていた。家の外で、何やら怒鳴り声のようなものが聞こえたが、よくわからなかった。
 どれくらい経ったのだろう。かなり長い時間が経っているように思えたが、実際はそうではないのかもしれない。
 陽菜と、母親が起きてくる気配がない。眠っているだけなのか、眠らされているのか。眠らされているのだとしても、一体どうやって? どのくらい?
 の横顔から、血が、茶色く渇いてきているのがわかった。
 院の出入り口に視線を移す。ここからだとすぐ目の前だ。恐怖感は未だ拭えないが、時間の経過と共に、全身の力の抜けた感覚は元に戻りつつある。
 受付の椅子に座るの位置からだと、カウンターをぐるっと回らねば表に出て来れない。走れば先に、逃げ切れるのではないだろうか。
 陸はの横顔と入り口とを、気づかれないようにそっと見比べてチャンスを窺った。はずっと俯いたままだ。チャンスはありそうに思えた。
 するとその時、いつの間にか席を外していた老婆が、部屋の奥からまたお盆を手にしてやってきた。
「熱いお茶をね、淹れ直してきました」
 が老婆の方を振り返った瞬間、身体が反応した。陸は駆け出した。しかし次の瞬間、視界の端での身体が宙を舞うのを見た。
 は驚くほど素早い身のこなしで座っていた椅子に飛び乗ると、その勢いで跳び箱のように受付カウンターを飛び越えて陸の前に立ちはだかった。
「うあっ」
 行く手を遮られ、急いで後退する。が怒りの形相で歩み寄ってくる。陸は、すぐ後ろで笑顔を浮かべて立ちすくむ老婆の手元から湯飲みを掴むと、それを迫り来る男の顔へと思い切り引っかけた。
「がっ」
 が思わず顔を覆う。
 その隙に脇を抜けようとするが、は片手で顔を覆ったまま、もう片方の腕をゴールキーパーの威嚇のように大きく広げ、ここは通さないと吠え立てた。
 再び一歩下がり、陸は大声をあげた。
「許してください! 許してください!」
 言っていることとやったことが真逆だ。だがそんなことは構わない。もう限界だった。これ以上、この状況を耐えることはできない。
「許して下さい!」
 男は顔を覆う指の隙間から陸を睨みつけた。茶は、さほど熱いものではなかったのかもしれない。ダメージがなさそうだ。
「こんの、ガキい」
 ただ火に油を注いでしまったのだと陸が確信した時、は受付に置いてあった小さな観葉植物の鉢を掴み、大きく振りかぶった。
「うあっ、うあーっ」
 大声で仰け反った瞬間、その太い腕に握り締められた鉢がものすごいスピードで目の前をかすめていった。
「うわーっ」
 そうする他なかった。陸は、パイプ椅子を投げつけ、骨格標本を倒し、バランスボールを蹴りつけ、叫び声をあげながら、一歩、また一歩と部屋の奥へと逃げるはめになってしまった。
「ハルちゃん! ハルちゃん!」陽菜の横たわるベッドに駆け寄り、激しく揺さぶる。「ハルちゃん!」
 しかし陽菜は起きない。隣の部屋に視線を移す。陽菜の母は? まだ起きないのか?
 振り返ると男が歩いてくるのが見えた。陸は声にならない叫び声をあげ、奥の方から隣の部屋へと逃げ込んだ。
 ベッドをぐるりと回り、陽菜の母の眠る頭の方に位置取る。この部屋の表の入り口から来るか。それとも今自分が通ってきた、隣の部屋との繋ぎから入ってくるか。
 表の方のカーテンは閉まったままだ。近づいたら膝下が見えるであろう、足元を注視する。
 だがしばらくしても、は部屋に入ってこなかった。その代わり、声がした。
「キミね、自分が何してるかわかってるの」妙に、落ち着いたトーン。「学校に言おうか」
「えっ」
 思わず声が漏れる。
「人の家に勝手に入って。出されたお茶、人にひっかけて大火傷負わせて。人の家の物なぎ倒して暴れまわって。犯罪だよ犯罪」
 大火傷なんて、してないだろう。陸は唇を噛んだ。そうだ、これは駆け引きだ。陸はそう判断した。
 だが、一方で不安に思う。火傷しなかったのは結果論だ。こちらは、火傷を負わせるつもりでさっきの行動を起こしたのだから。それに、クローズというプレートが出ているのにもかかわらず、勝手に院内に入ったのは事実だ。部屋の物をなぎ倒して騒いでいるというのも、事実だ。
 何とも言えない焦燥感が募り、陸は返す言葉が見つからない。
 そんな煮え切らない相手を見限るように、は結論を急ぐ。
「いいんだよ、学校に言ってみようか」
「そんな」
 思わず口をついた言葉は、やめてほしい、という、相手の下手に出るものだった。
 草間は語気を強める。
「警察に突き出してもいいんだよ」
 のよく通る大きな声に、堂々とした態度。ただの駆け引きだと判断した気持ちは、揺らぎに揺らぎ、崩壊しかかっていた。男の言ってることの方が正しくて、自分の方が本当に犯罪を起こしているのではないか。陸はそんな気持ちになり始めていた。
 涙が浮かぶ。怖い。とにかく、怖くてたまらない。陸は上擦った声ですがった。
「もう、ですんで、帰りますから。許して、ください」
 頭を下げると、アイマスクをした陽菜の母の顔が近づいた。何事もないように、すやすやと眠っている。
 涙ながらにその顔を見ていると、この一連の騒ぎは、やはり自分が一方的に引き起こしたものなのだ、悪いのはやはり自分の方なのだという気持ちにさせられる。
 そんな自責の念にとらわれた少年に、無常な判決が言い渡された。
「だめだ」
 顔を上げる。「どうして」
 の姿は相変わらず見えない。部屋の向こうで、男は結論を出した。
「もういい、まず学校へ連絡します」
 の足音が聞こえた。受付に電話があった。電話をかけに行くのだ。
「ちょ、ちょっ」
 陸はベッドを回り、駆け出した。
 カーテンを開け、勢いよく部屋を飛び出したところで、入り口の脇からが飛び出してきた。
「つぅかまあえた」
 両腕ごと包み込まれるように捕まえられ、陸は叫び声をあげた。
 強く抱きかかえられたまま、少し持ち上げられる。このまま身体ごと捻り潰されるのではないかという程に力を込められていく。
 俎上の魚となった陸は、ひたすら声を絞り出すほかなかった。
「すいません、すいません、すいません」
 胸元の辺りで、密着するの血まみれの口がいやらしく笑う。
「んふう。よし、ようしよし。いい子だ」
 の両腕に、更に力が込められる。気をつけの姿勢のまま抱え上げられ、自由もきかず呼吸もままならず、陸は捻り潰されそうになっていく。
──がっ、ぶっ」
「いい子だ。ちょっと我慢ね」
 さらに力が増していく。朦朧としていく意識の中、の顔が見えた。口元は笑っているが、三白眼は笑っていなかった。
 死ぬ。そう恐怖した瞬間、
「ごぶっ」
 男が突然、その場に倒れこんだ。
「岡本くん! 岡本くん!」
 背後からを襲ったのは、堤だった。その手に、大きな植木鉢を抱えている。
 陸は倒れるように後ろ歩きし、壁際でどんと背中を衝いた。へたり込みそうになるのをグッと堪える。
「おい! 岡本くん!」
 堤は陸に駆け寄った。両肩を揺する。
「だいじょうぶ、です」
 陸は弱々しく、小さい声で応えた。
「洋子は? 陽菜は? おいっ」
 陸は返事する代わりに、奥の部屋を見た。
「洋子! 陽菜!」
 堤は部屋へ走り寄ろうとしたところで、強い足払いを受けた。派手に頭から転ぶ。転んだまま振り返ると、倒れた状態のままのが睨みつけていた。
「次から、次へと」
 は忌々しそうに言った。
 次の攻撃に備え、堤は急いで立ち上がった。はゆっくりと立ち上がると、堤の顔をまじまじと見て、眉を上げ、声色を変えた。
「なんだ、誰かと思ったら」鉢で殴られた後頭部を摩りながら、早口で続ける。「堤さんじゃないですかご無沙汰ですね」
 堤は言葉を返さず、警戒を怠らなかった。「草間」
「あなたも不法侵入ですか」
「何した……家族に何した!」
「何って、堤さん」草間はベッドの方を顎でしゃくった。「施術ですよ、あなたもやったでしょ?」
「その顔の血は何なんだよ」
「ああ、これ」
 草間は伸びた髭を確認するように頬を撫でた。その緩慢な仕草に怒りを覚え、堤は怒鳴りつけた。
「おまえ、洋子と陽菜に何したんだっ」
 草間は頬を撫でながら早口で呟いた。
「そう怒鳴らないで堤さん、僕もちょっとこれでも混乱してるのよこんなことになるなんて思ってなかったから、ああああああどうしたらいいかな」
「狂ってる……狂ってるよおまえ、頭おかしいんじゃねえのか、そこのあんたもっ」
 堤はひっくり返ったパイプ椅子の傍で、何も乗っていないお盆を手にしたまま薄ら笑いを浮かべて立ち尽くしている老婆にも怒りを向けた。
 すると草間は三白眼を大きく開き、堤を指差して叫んだ。「ぶ、侮辱罪だっ」
 突然草間が走り出した。堤は襲われるかと思わず身構えたが、草間の狙いは堤ではなく、陸だった。
 やっとの様子で壁にもたれかかっている陸に駆け寄り、その腕をグイと引っ張って陸の背後に回ると、身体を羽交い絞めにした。そして組んだ両手を陸の首の後ろに沿え、前方に強く押し倒す。
「うあっ」
 首が前に折れる。陸の顔が苦痛に歪む。
 草間は陸の肩越しに堤を睨みつけた。
「二人とも、罪を侵してる」草間が力を込めると、陸は呻き声を洩らした。「この彼は不法侵入と傷害罪、堤さんも不法侵入と傷害罪……あと侮辱罪!」
 理解ができない。堤は首を振った。
「何言ってる」
 草間は肩で息をしている。
「訴えられたくなかったらな、訴えられたくなかったらな」
「やめろ」
 草間の視線は定まらずに泳いでいる。パニックに陥っているように見えた。さっきの本人の言葉は本当なのだろう。こんな事態になることを予期しておらず、この事態の落としどころ見つけられないでいるようだった。
「訴えられたくなかったら──
 草間はただ同じ言葉を繰り返し、力任せに、陸を羽交い絞めにする腕に力を込め続ける。
 散らかったフロアに目をやると、倒れた骨格標本の支柱が取れて転がっていた。もう一度、攻撃すべきか。
 堤が案じたその時だった。  
「やめてっ」
 女の声と共に、院内に西日が差し込んだ。(クローズ)院内に飛び込んできた三人目の侵入者は、堤家の隣人だった。

 

(つづく) 

 

 

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 この女からは、逃れることはできない──絶対に。